2017-05-08 Mon

2015年制作 邦
監督:橋口 亮輔
≪キャッチコピー≫
『それでも人は、生きていく』
≪ストーリー≫
橋梁点検の仕事をしているアツシ(篠原篤)には、愛する妻を通り魔殺人事件で亡くしたつらい過去があった。自分に関心がない夫と考え方が違う姑と生活している瞳子(成嶋瞳子)は、パートの取引先の男と親しくなったことから平凡な日常が変わっていく。エリート弁護士の四ノ宮(池田良)は友人にひそかな思いを寄せていたが、ある日、誤解が生じてしまい……。
≪感想≫
痛たたた・・・・。
3人の物語を通してこの社会に生きる上での理不尽さや閉塞感を感じる。
何とも痛くて震える作品。
1.ゲイの敏腕弁護士四ノ宮のお話。
プライドが高くって見る者全てを見下す感じ。
恐らくマイノリティ側に生きているが故の過剰な予防線。
基本的にこいつも実は性格が悪かったりもするんですよね。
ただ、彼の現状、言いたくても誰にも言えない歯がゆさ、周りからの目などを
考えるとやはり彼も社会から疎外されている存在だったりもするのかなと。
憎らしいキャラクターなんだけど見てるとキュッと痛みの感じる人間。
2.旦那にもろくに相手もされず平平凡凡と退屈な日々を過ごす主婦、瞳子のお話。
彼女のお話もとってもリアリティが溢れるお話でしたね。
なんとなくながらで生きている感じ。
心が湧きあがる事も特になくって毎日をなんとなく過ごしている感じ。
以外にそういう人って多いんじゃないかなぁ・・・。
とある男と不倫する事になるのですが、これまた生々しくって。
綺麗でもないこの物語に結局、こんなもんなんだろうなぁって思ったり。
そしてこの男がまたダメダメな奴なんですよね。
朴訥で色気があるっちゃあるんですが、ちょうど良いダメおやじって感じ(苦笑)
結局はクスリを打つようなやつでしたもんね。
ただこいつの閉塞感っつーのもなんとなくわかる気もしたり。
うだつも上がらない生活の中で、
「俺はこんなもんじゃねぇ!!」
って感じがね。
3.妻を通り魔に殺されて心が折れてしまった男・アツシのお話。
彼のお話が一番ヘビーでした。
何ともやりきれない気持ちでひたすら眺める。
彼の痛みはどれくらいのものなのか・・・。
周りの人間は知るはずもなくなんとなく彼に接している。
他者に興味を持たない、と言うか、持てない社会構造になってしまったのかなぁと。
自分本位にならざる得ない社会に。
彼の痛みや怒りはどこにぶつければいいのか。
誰に話しても受け止めてもらえず、消して癒されることのない心の痛み。
彼が市役所で職員と健康保険の更新のやりとり。
僕的に、このシーンは近年稀に見るイライラさせられる、まさにやり場のない感じを
味わったシーンでした。
本当に役所の人間が嫌な人間なんですよね。
心がないと言うか、マニュアル通りと言うか。
役所の対応については100歩譲って分からなくもないんですが、いくらなんでもこんなに
冷たくあしらう必要があるのかと。
お前らにとって数ある対応の内の1人なんだろうけど、こっちは1人の内の1人として
対応してもらっているんだぞと。
この役所の人間の対応には本当に嫌気がさしました。
観ていてアツシと同じようにこの怒りをどこにぶつけようかともやもやもや・・・。
ただ、そんな行き場のない怒りを抱え込むアツシの周りにもよりそう人はたくさんいて。
片手を失くした同僚の黒田さん。
彼は表情も柔らかく温かいのですがその言葉も温かくって。
アツシを引っ張り上げる訳でもなく、押しだすわけでもない。
ひたすら寄り添っているこの存在がとても温かくってね。
こんな人間もいるんだよなぁと希望を持てたり。
とにかく鬱屈した日々を送っている人たち。
そんな3者3様の物語。
3人とも共通して言える事なんですが、今まさにどこかで彼らは存在して、日々を営んでいるかのような
リアリティ溢れる人物像、社会像。
だからこそ彼らの痛みが、そして社会の不条理が身にしみてもやっとする。
ひたすら続くもやもや感。
ただね・・・。
これは演出の妙だと思うんですが、定期的に笑えるシーンを差し込んでいて。
例えば、冒頭の四ノ宮と女子アナの会話。
例えば、スナックのママと瞳子の会話。
その後の展開。
アツシの同僚の若手社員のくだらない話。
思わず吹き出してしまうユーモアの数々。
くらーい鬱々としたお話の中にふとした笑いは本当に救いになりました。
物語の最後。
彼らは何となく笑顔になり少なくとも最初の頃よりは楽しそうに生きている。
もしかしたらまだ悲しみは癒えていないのかもしれない。
もしかしたらまた悲しみが襲ってくるのかもしれない。
もしかしたらまだまだ退屈な日々も続くのかも。
それでも彼らには生活があるわけで。
それでも生きていかなきゃいけないわけで。
乗り越えて乗り越えてぶつかってぶつかって。
少しの悲しみと少しの喜び。
希望と絶望。
どちらが多いのかは生きてみなきゃあ分からない。
それは鑑賞している僕にも言えるわけで。
本作のキャッチコピー
「それでも人は、生きていく」
そういうことなんだよなぁとほろり。
とても良い作品でした。
≪点数≫
8点
(17.01.29鑑賞)

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